2017年08月11日

「こゝろ」


◎階段

アパートの階段をおりて、またのぼります。けふはひとと
あいませんでした。下りには左側に手すりがありますが、上りにはあ
りません。鉄柵に左手でつかまってのぼります。ほぼまいにちくりかえ
します。「日々はなんの理由もなく、日々につけくわえられる」

スーパーマーケットの階段でもやります。さっぱりうまくはなりません。
いや、下手になりました。以前は手すりにたよらなかったのですから。
いまはひとりでダフネにもいけません。それを悔やむべきではありません
が、「しかし選ばなくてはならない。生きるか、物語るか」

きのう犬が吠えました。二度。なぜかわかりませんでした。あとでわかり
ました。玄関のそとに、死にかかったセミがいたのでした。ときおり蘇生
しては窒ばたつかせる音を、犬は不審がりました。けっきょく、セミを
くわえて部屋にもちこみ、死なせてしまいました。解体されたアブラゼミが
ベッドにありました。

妻とともに明治天皇の「大葬」の日に「殉死」した乃木希典の心性と
漱石と天皇制ファシズム――について、階段をのぼりながら、なにごとか
おもいましたが、すぐに忘れました。手におえません。饐えたスープみたい
にしけった空気。どのみち戦争はあるでしょう。わたしは階段をおりて、
またのぼるでしょう。

「こゝろ」を、エチオピアの山中で読んだことがあります。どきどきしま
した。天皇制ファシズムは血だらけです。どろどろした、ねばっこい血です。
やまゆり園事件の暗がりの奥の奥に、かすんでみえるものはなんでしょうか。
posted by Yo Hemmi at 17:44| 所感 | 更新情報をチェックする