2017年12月20日

おもいで


◎石鹸

いつだったか面会にいったら、かれがへんなことを
いった。じぶんのからだが死体みたいににおうんです。
そんなようなことをブツブツとつぶやいた。面会室をで
るとき、腕や肩をドア口にぶつけていた。

わざとではなく、バランス感覚がどうかしていたらしい。
面会にたちあう刑務官の顔が、硬いもので殴られたみたい
に崩れていたこともある。泣いているのかとおもった。
ふつうありえないことが、死刑囚のいる空間にはおきる。

永山則夫も吊された。その朝、永山の絶叫を大道寺将司は
耳にしている。将司さんは光彦君を獄内でみかけている。
永山は絞首刑に処され、将司さんは獄死し、光彦君も吊さ
れた。

光彦君はとても繊細で、抜群の記憶力のもちぬしだった。
そんなことはないだろうといっても、そんなことはあるのだ。
死刑囚が獄外のものよりよほどこころやさしい、ということは
ざらにある。

かれからの手紙はみな石鹸くさかった。しょっちゅう石鹸で
手をあらっていたらしい。ものすごい清潔症。そんなことは
ないだろうといったって、そんなことはある。まだからだに
ちからがはいらない。

殺してはいけない。殺すことはない。だれでも。

posted by Yo Hemmi at 15:09| メモ | 更新情報をチェックする