2018年12月12日

ねえ、あんた


着座ラジオ体操で

「ねえ、あんた、あんた・・・」。総合着座ラジオ体操の最中に
横から声をかけられる。頬のこけた老女。落ちくぼんだ目。
かわいた牡蛎。痩せた手がまねいている。わたしを。「ねえ、
あんたあ・・・」

みえなかったふりをする。聞こえぬふり。老女、車椅子からまた
手まねき。ささやくように「ねえ、あんたあ・・・」。知らぬふり。
でも、みている。呼びかけてくる。「お父さん・・・」。「ねえ、
お父さん・・・」

わたし、口のなかで、むむむと言う。「お父さん・・・」。すがるよう
に。執拗に。「ねえ、お父さん・・・」。「むむむ・・・」。指導員の
声。「××さん、お父さんはいないでしょ?」

入れ歯が合わなくなっているのだろう、小さくカタカタと音が
する。「ねえ、お父さんてば・・・もう帰ろ・・・」。「うん・・・」と
小声で応じる。境界はない。もう帰ろうか、とおもう。

インストラクターがくる。いっしょにマシーンにむかう。背中が
聞く。「ねえ、お父さん・・・」
posted by Yo Hemmi at 15:13| 私事片々 | 更新情報をチェックする