◎「人間を人間たらしめているものの限界・・・」
毎日、音から逃げて街から街へとほっつき歩く。顔中に
刺青をいれた老人をみた。わたしにむかってなにか呟い
た。低く罵ったのか。「ヒトデナシ・・・」
「人間を人間たらしめているものの限界・・・」。だれが
言ったのか。思いだすまでに3ブロック歩く。杖をつい
て。赤い帽子をかぶった小学生の長い列。恐怖。
「お気の毒なおじいさん・・・」。幻聴か。杖をあいまいに
ふりあげる。「人間を人間たらしめているものの限界・・・」
ーー根本美作子さんが『母の前で』の「訳者あとがき」で
書いていたのだ。
小鳥がするどく鳴いた。空気を斬った。