○巣箱

巣箱。けふも空き家。視床痛。助辞も繋辞も面倒くさい。
まだまだこれからだよ。まだ先。ひとの目が獣じみるのは。
記憶がある。寂れた夕まぐれ。駅前。失業者たちの目が
赤く、ときに金色に血走る。知っている。見たことがある。
忘れてしまっているのだろう。そのような時代の、かわたれ
どき。ひとの輪郭が煮こごりみたいに崩れる。瞳がなぜか
煮こごりのなかに奥まって、凝りのなかから哀れがましく、
恨みがましく光る。燐光の殺意。
60すぎの失業者がスーパーでカップ麺をまんびきして捕まり
ました。81だかの無宿者が、野球部員たちに何百メートルも
追いかけ回され、激しい投石をうけて死にました。ひとりぐ
らしの、少しニンチ入ったおばあちゃんが、アパートで飢え
死にしてました。
本ブログをご覧になっているがんのひと、パーキンソンのひ
と、ウツのひと、統合失調といわれているひと、もやもや病
のひと、反社性向のひとびと、片マヒのかたがた、神経障害
性疼痛のみなさん・・・きましたね、ついにやってきましたね!
きたということをまずかくにんして、それから、予想どおり
と思いませんか。ほぼ予感どおり。そして、ほんのちょっとだけ
〈ざまあみやがれ〉てな気分も。しかしながら、世界の全的瓦解
はまだ始まったばかり。
夕暮れの駅前では、影をなくしたおとこたちが力なく咳をして
いる。言葉と結果がたがいに反駁しあい、どこまでも空しく毀
損しあう夕暮れ。だが、まだだ。〈完了〉にはほど遠い。こんご
、おとこたちの頬骨はもっともっと高く、最終的には見ちがえる
ほど尖るはずだ。
とりあえず、すべてのアウラというアウラは剥がされたのだ。
〈自己責任〉をかたるものを信じてはいけない。ぜったいに。
『T市にて』若干。