2021年01月17日

馬上から


馬で坂をくだる

ネコ.jpg

疲れてキタンラド山を下ったときの視界を憶えている。
3度転び、息も絶え絶えで馬にのった。馬上からの眺め
が他の時とまじわり、ぶり返す。他の場所で馬にのった
時の眺望とたぶる。他の場所がどこか憶えていない。

自己の騎乗と自己の騎乗を見る歩行(かち)の自己。それ
らをつなぐ馬上からの眺めはいつも、急勾配の一本道である。
馬はわたしをのせたまま長いこと小便をしたのだ。それが湯気
とともにはげしくにおい立ち、自分が小便している気分になった
のである。

そのころは、ひたすら向かっていたのであり、待ってはいなか
った。いまは待っている。終わりや死が、向こうからやってく
るのをじっと待っている。

さなえさんをずっとみていない。

『月』は今春、角川文庫になる。解説は映画監督・石井裕也さん。


posted by Yo Hemmi at 17:03| メモ | 更新情報をチェックする