○オンライン研究会のお知らせ
「辺見庸『1★9★3★7』を国際的に読む:世界から見た日本における加害の記憶」
2022年2月27日(日)16:00〜19:30
【参加者】
セバスティアン・マスロー 仙台白百合女子大学人間学部専任講師
ギヨーム・ミュレール ボルドー・モンテーニュ大学(フランス)専任講師
王中忱 清華大学(中国)教授
カタジナ・スタレツカ ワルシャワ大学(ポーランド)准教授
趙秀一 東国大学(韓国)専任研究員
谷口亜沙子 明治大学文学部教授
竹内栄美子 明治大学文学部教授
岡本和子 明治大学文学部教授
根本美作子 明治大学文学部教授
【目的】昨今の日本の右傾化とともに、戦争の記憶がますます歪められつつある現代の日本において、もっとも切実に日本の戦争問題に直面しようとした作品、辺見庸の『1★9★3★7』(2015年)は、その重要性に比してあまりにも言及されることが少なすぎた。ドイツにおける国民規模のナチズムの徹底的な反省や、フランスにおける対独協力の反省、ポーランドにおいて難航しつつも確実に進められている反ユダヤ主義の反省など、第二次世界大戦の記憶の検証が世界的に進むなかで、日本における記憶は深まるどころか、漸次はぐらかされていっている。陸軍の戦争や原爆の被害者としての戦争の記憶ではない加害の記憶が極めて少ないこの国において、いまこそ、戦争の記憶を加害者の立場から見直すことが喫緊の課題となっている。日本の戦争の現実とその歪んだ記憶を根底から問い直す『1★9★3★7』を各国の日本研究者と読み直すことによって、新たな日本の出発点を模索したい。
【特色・独創的】読書研究会という特殊な形を取ることによって、参加する研究者は、研究者としての立場からだけではなく、「世界市民読者」として発言、意見交換することを前提とする真に国際的な斬新な試みである。また、参加者が加害の問題、集団的記憶の問題、そして文学、ひいては人文学が戦争の記憶をいかに語るのかという問題を、辺見庸の『1★9★3★7』という一つの作品を基に具体的に検討することによって、対話・議論の活発な場を生み出すことを目指す。それぞれの研究者が、それぞれの研究成果を発表し合い、交換するという従来の人文系の共同研究と違い、お互いの立場(国)から、そしてそれを超えて、互いに世界市民としての視点も交えながら、激しく意見交換し、問いを投げかけ合い、ともに答えを模索する中から、辺見庸の『1★9★3★7』という作品の特色、重要性、その戦後的意味、国際的意味を探り、そこから、どのようにして現在の日本において戦争の記憶、加害の記憶を正しく構成することができるのかを、各国の例との比較を交えながら考察し、世界的な視点から真剣に検討することを目的としている。現在の日本の状況と現況に至るまでの日本の歴史的・文学的遺産に詳しい海外の日本研究の俊英に、現状分析も併せて報告してもらうことによって、一段と客観的に、そして多層的に、より正しい記憶の構成を試みることができるはずである。
本共同研究をつうじて、中国、韓国、フランス、ポーランド、ドイツと、第二次世界大戦に深く関わった国々の日本研究者と永続的なネットワークを作り、『1★9★3★7』だけではなく、日本の戦後に鋭いメスで切り込む辺見庸のそのほかの作品(『月』や『自分自身への審問』など)だけではなく、広く日本の戦争の表象の仕方について旺盛に議論し、現在に至るまでの日本の「戦後」を新しい光のもとに晒し出す国際研究クラスターを創設することを計画している。
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