犬を連れて帰省したいと思う。前は考えたことがない。
新幹線ではなく車で行きたい。できたら高速ではなく
一般道を。しきりに「区切り」を考える。意味もないのに。
「変化」はある。水音が近づいている。死はそんなに遠く
ではない。足下にある。ぼやけたひとつの影として。
「19年この辺に棲んでいるのよ・・・」杖をつき傾いであるく
老婆に言われた。問うてもいないのに。老婆は寂しげに
去っていった。西陽が屈曲したせなかを打っていた。老婆は
左側に傾いでゆっくりと歩く。「かわいいね・・・」と声をかけ
られた犬は、一度も老婆と目を合わせなかった。