
夕間暮れ、女が集合住宅の最上階から飛び降りようとして
いた。ヘルパーさんが見つけ止めさせたという。30歳位。
コンクリートの塀から半身を乗り出そうとしていた。「すみ
ません・・・」と掠れ声で言ったらしい。その話を聴いてから
耳を澄ますようになってしまった。分厚いドア越しに聞こえ
るわけもないのに、ドサリという鈍い落下音を詮方なく聞こ
うとする。また試みるとはかぎらないのに、またやるだろう
と勘をつけている。
「個人は国家を圧政だと感じとる。個人は自分の理性によって
国家を望んだにもかかわらず、国家が有する非人称的運命のな
かに、もはや自分の理性を認めることがないのだ。・・・」
(『全体性と無限 』)
同居犬が気配だけ遺して消えてから2か月。世界が変容した。
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